糖質も気をつければ、油もOK!幸せな食生活の実現
                ロカボで一緒に叶えませんか 一般社団法人 食・楽・健康協会 代表理事 北里研究所病院 糖尿病センター長 山田悟氏

Mr.Yamada

糖質も気をつければ、油もOK!幸せな食生活の実現
                ロカボで一緒に叶えませんか 一般社団法人 食・楽・健康協会 代表理事 北里研究所病院 糖尿病センター長 山田悟氏

山田医師

最近、健康や、ダイエットを意識して糖質制限をしている人が増えています。糖質制限とは、糖尿病の予防と改善を目的とした食事療法で、カロリーや脂質の制限はせず、糖質だけを制限する食事療法です。しかも極端に糖質を減らす食事ではなく、ゆるやかな糖質制限が生活習慣病の予防や減量に効果的だということで注目が集まっています。
キーワードは「ロカボ」
「ロカボ」の提唱者で「糖質制限食」の第一人者である山田悟先生に「ロカボの誕生からロカボの未来」そして「幸せな人生、幸せな食生活を実現させる食事のありかた」など「ロカボ」への想いをうかがいました。

interview01

「おいしく楽しく適正糖質」それがロカボ

楽しくて、続けたく鳴る食事療法

ー「ロカボの研究を始めたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?」

2002年に北里研究所病院に赴任しました。糖尿病外来の患者さんに食事療法で日々節制し、良好な血糖値を保っていた70代の紳士がいらっしゃいました。いつもなら良好な血糖値を喜ぶはずの紳士がその日は悲しい顔をされていたのです。そして、このようにおっしゃいました。
「先日、77歳の誕生日を迎えました。家族がレストランで喜寿のお祝いをしてくれたのですが、家族みんながフレンチのフルコースを食べている中、私だけワンプレートでおしまい。自分は家族と同じものを食べられない、自分は自分の祝いの席ですら好きなものを食べることができない、ということがどれほど悲しかったか。」

その話を聞いた時、“糖尿病の患者さんに勧めているカロリー制限食は、その人の幸せな人生を奪ってしまっているのではないか? 医学的には正しいことであったとしても、人生を豊かに幸せにできない治療とは、医療として正しいことなのか?”という思いが閃光のように頭をかすめました。
そこから、「血糖値をコントールでき、もっと楽しく続けられる食事療法」「あの人がやっている治療法を自分もやりたい!と思ってもらえる食事療法」を考えるようになったのです。

山田医師 幸せな食生活(作る喜び、食べる喜び)を取り戻して欲しい
幸せな食生活(作る喜び、食べる喜び)を取り戻して欲しい

日本で、『ミシュランガイド東京2008』が発行された2008年のことです。接待の利用が多いお店だからこそ、糖尿病の方向けのメニューがあるのではないか?と考え、ミシュランガイドに掲載された150店すべてのレストランに手紙を出したところ、10店舗から糖尿病の方向けメニューがありますとお返事をいただきました。実際足を運び食べてみましたが、残念ながら品数を少なくしたり、野菜中心というメニューで糖尿病治療食と呼べるものではありませんでした。それでも“10店のお店が糖尿病の食事療法を意識してくださっている”ということを嬉しく思いました。
その翌年、ひらまつグループのレストラン『ボタニカ』(2017年1月閉店)の阿曽達治シェフから 「糖質制限のコースを始めましたが、山田先生は糖質制限食を糖尿病治療食として認めますか?」というお電話をいただきました。後で詳しく述べたいと思いますが、そのころDIRECT試験という試験の報告で、糖質制限食こそがカロリー制限食よりも血糖管理を改善し、肥満を是正し、高脂血症も改善できることを読んでいた私は、「もちろんです。ただ、主食が好きな日本人には継続できないと思います。」とお答えしました。すると、阿曽シェフは「では、試しにうちのレストランに食べに来てください。」と仰ってくださいました。
”パーフェクト!”
阿曽シェフの料理を食べた後、そのおいしさ、満足感、血糖値が上がらないこと(私自身比較的食後高血糖になりやすい体質です)… すべてが完璧であることに心地よい衝撃を受けました。外食では糖尿病治療食にならない!という私自身の根拠のない常識やあきらめを根底から覆していただいた瞬間でした。
時を同じくして、世界では栄養学の考え方が大きな変化を見せていました。こちらも常識が覆るような大変化です。2007年までのアメリカ糖尿病学会ガイドラインでは、1日の糖質を130g以下に制限することは推奨されないとするものでしたが、2008年に糖質制限食は肥満治療の一選択肢になりました。そのような経緯で、“「糖質制限食」は美味しく楽しく、続けたくなる食事療法になる”と活路を見出したのです。

毎食ごとの糖質の波を作らない。嗜好品だって食べてOK 毎食ごとの糖質の波を作らない。嗜好品だって食べてOK

ー「ロカボの定義は?」

一食あたりの糖質量を20~40gにする。これが大事です。というのも血糖は毎食ごとに上がりますので、毎食意識しなくてはいけません。血糖の上下動が大きいほど血管を傷めたり、認知機能を低下させるなどの作用を持っていますから、一食ごとの意識が大事です。一食当たり20~40gに加えて嗜好品を1日10gまで楽しんで、結果として70~130gにするという考え方がロカボです。

毎食ごとの糖質の波を作らない。嗜好品だって食べてOK
-「糖質の下限を作ったことの意味は?」 気をつけるのはカロリーではなく、糖質。しかもゆるいところがいい
気をつけるのはカロリーではなく、糖質。しかもゆるいところがいい。

ー「糖質の下限を作ったことの意味は?」

糖質を極限まで下げることが良いということにしますと、我慢している自分を褒めたくなるストーリーが出来上がってしまいます。本来食べたいものを我慢している自分が偉いと。それだとカロリー制限と同じで、摂食障害に向かってしまう可能性もあります。食べないことを是としてしまうということが一番危険です。
極端な糖質制限とゆるやかな糖質制限を比較した論文では減量効果に差はありません。一方で、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)には差があります。悪玉コレステロールは動脈硬化を発症する原因といわれているものですので、低いほうが良いのですが、極端な糖質制限の方が高くなりました。血管の機能検査でも、極端な糖質制限の場合は機能が落ち、ゆるやかな糖質制限だと回復するというデータが出ています。
また、極端に糖質を制限すると、野菜も限定されてしまうため、十分に摂り切れない栄養素が出てきてしまうこともあります。そういう意味では、低栄養のリスク、低栄養に伴う貧血や骨粗鬆症のリスク、摂食障害のリスクも考えなくてはならなくなります。それが糖質の下限を採用した理由です。

油はいっぱい摂っていい

ー「北里研究所病院の2階にある『レストランつくし』では、山田先生が監修されている糖質制限メニューが提供されています。サラダ、スープ、ボリュームたっぷりのメインにパンのセットで糖質が29.4g。美味しくてお腹もいっぱいに。しかし油が多くカロリーも高いようですが…それでも大丈夫なのでしょうか?」

2008年に報告されたDIRECT試験で説明しましょう。科学的に信頼度の高い無作為比較試験という手法で、2年間という長期にわたる介入を続けた研究です。
(*)参考:Iris Shai et,al. N Engl J Med. 2008;359(3):229-41. 「Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet」
カロリー制限かつ低脂肪食、カロリー制限食(高脂肪食(地中海食))、カロリー無制限の糖質制限食の3つの食事療法の有効性および安全性を、肥満患者に対して比較した結果、減量効果が一番高かったのは糖質制限食、次はカロリー制限食で、一番低かったのは脂質制限食でした。
またこの3つのグループのうち、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)を一番上げたのも、中性脂肪が一番下がったのも、糖質制限食です。

油はいっぱい摂っていい 油はいっぱい摂っていい

ー「健康診断で中性脂肪が多いと指摘されたら、食事の油摂取を減らそうと思われる方は多いのではないでしょうか」

血液中の脂肪が多い、または脂肪肝であるというのは、食べる脂肪が多いからと考えるのはごくごく普通の物語ですよね。ところが、今世紀になってから、肝臓での脂肪合成は何に支配されているのかという研究が進んできて、実は糖質摂取が肝臓での脂肪合成を大きく動かしているということが分かったのです。だから糖質摂取を控えることで肝臓の脂肪合成が減り、脂肪肝も良くなり、血中の中性脂肪が下がりやすいというメカニズムが見えてきました。
2015年アメリカの食事ガイドラインでは「脂質摂取上限に関する勧告はなくなりました。総脂質摂取量は栄養学的な関心事項でなく、脂質摂取の制限の提案もしません」としました。
古い油やトランス脂肪酸(人工的に液体の油を固形化する際に生じる油)を控えれば、動物性でも植物性でも制限することはありません。ロカボを成功させるためにも、油をふんだんに使ったメニューで美味しく食事を楽しみましょう。

interview02

気をつけるべきは、
カロリーではなく「糖質」なのです

山田医師
おかずはお腹いっぱい食べましょう おかずはお腹いっぱい食べましょう

ー「食後の血糖値を上げない食べ方のポイントは?」

食後の血糖値を上げる栄養素は糖質だけです。一方、油は摂れば摂るほど糖質摂取に伴う血糖上昇にブレーキがかかります。また、たんぱく質も一緒に食べることによって糖質摂取に伴う血糖上昇にブレーキがかかりますので、肉や魚、大豆製品、たまごなどを取り入れたおかずもお腹いっぱいになるまで食べましょう。

ボリュームたっぷりのおかずに主食もプラス

ー「献立の作り方のポイントは?」

肉、魚、大豆製品、たまごのいずれか一つはメインにして、サブも常にたんぱく質の副菜を付けること。それにプラスして野菜やきのこ、海藻などの副菜、更に主食も必ずつけます。そして油もいっぱい使ってください。
塩分の摂りすぎについて心配される方もいらっしゃると思いますが、47都道府県の三大栄養素と塩分摂取の相関関係をみると、糖質摂取と塩分摂取は正の相関です。「お漬物があったら白米が欲しいし、塩辛があったら白米欲しい。白米あったら味噌汁が欲しくなる」というように、片方が増えたらもう片方も増えます。
ところが、油の摂取と塩分の摂取は負の相関で、片方が増えるともう片方は減ります。油をしっかり摂ることができれば塩分を使わなくても味が際立つのです。
実は、日本では高血圧の方の摂取塩分の目標値は、塩分を過度に摂取していると言われているアメリカ人の平均摂取量の倍近い数値に設定されています。このことから、日本人はまれにみる高塩分食民族だということがわかります。油をふんだんに使うという意識を持つことで過剰な塩分摂取を抑制しやすくなるのです。

食べる順番はカーボラスト
食べる順番はカーボラスト

ベジファーストという言葉は、野菜を先に食べることを示していますが、論文上言えることはカーボラストです。
「米→野菜」より「野菜→米」という順番で食べる方が、血糖値が上がりにくいという論文があります。別の論文では、「肉→米」「魚→米」「米→肉」の順番だと「米→肉」という順番の食べ方が一番血糖値が上がりやすいという結果が出ています。また別の論文では、「ミート&ベジタブル」というワンプレートと「パン」の順番では、「ミート&ベジタブル」を先に食べたほうが血糖値が上がりにくいという結果となっています。野菜と肉の順番についてはまだ検討した論文がないという状況です。
ベジファーストを意識するあまり、アツアツのお肉を後回しに食べている方もいると思いますが、大切なのはカーボラストです。美味しいものは美味しく楽しむことがロカボ食のルールですし、料理人に対する敬意です。

太った人は痩せて、痩せ過ぎた人は筋肉のついたスリム体形に

ー「ゆるやかな糖質制限のメリットは?」

先述しましたDIRECT試験では、HDLコレステロール(善玉コレステロール)上昇、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)と中性脂肪の低下、血糖値、HbA1cの低下が確認されています。また、太っていてかつ、血圧が高い方では血圧が下がったということも報告されています。糖尿病患者さんを対象に北里研究所病院で行った調査でも、血糖値・中性脂肪値が良くなりました。
実は日本人は痩せたまま糖尿病になる方が多くいらっしゃいます。欧米人のように、単に体重を落とせばいいという指導とは違い、痩せた人は糖尿病治療で体重を落としてはいけません。ロカボを指導した場合は、肥満度の高い人は体重が落ち、痩せ過ぎている人は体重が増加しました。これはたんぱく質の摂取が増えた結果、さらにガリガリに痩せるのではなく筋肉のついた健康的なスリム体形へと変わったということです。

太った人は痩せて、痩せ過ぎた人は筋肉のついたスリム体形に ゆるい糖質制限のメリットは?
interview03

幸せな食生活の実現
ロカボで一緒に叶えませんか

メタボの要素が改善できる メタボの要素が改善できる

生活習慣病はドミノ倒しで進んでいきます。はっきりと病気とされる前の段階、いわゆる未病の段階でその状況に気付いて後戻りし、元に立ち返っていくということは非常に重要です。
ロカボは未病の対策としても良いです。また骨密度の低下や筋肉量の退縮は30代から始まるといわれています。30代半ばからロカボを意識してもよいでしょう。また、10代の方でも肥満のお子さんがご自分でロカボをやりたいというのであれば良いと思います。ただし、カロリー制限は取り入れないでください。

メタボの要素が改善できる
ロカボな食生活で日本人の健康状態を良くしたい、そして世界に広めたい ロカボな食生活で日本人の健康状態を良くしたい、そして世界に広めたい

ー「ロカボを意識した生活で得られるものは?」

そもそも、ロカボという食べ方に行きついた理由は“幸せな人生、幸せな食生活の実現”にあるので、まずロカボで幸せな食生活を取り戻した上で病気の治療をしていただきたいと思っています。
何かしら食事の我慢をしているロカボは本来のロカボではないということです。パンや麺などの主食でも、低糖質で美味しい商品が研究され発売されていますので、食卓に取り入れていただきたいですね。

ー「ロカボを知らない方へのメッセージをいただけますか」

もし「美味しいものを好きなだけ食べていたら不健康になる」と思うことがあれば、ロカボという言葉を思い出してください。美味しく楽しく食べて健康になっていただきたいと思っています。

山田医師

山田医師

一般社団法人 食・楽・健康協会 代表理事
北里研究所病院 糖尿病センター長

山田 悟

Satoru Yamada

医学的根拠に基づいた糖質制限に長年取り組んできました。数多くの著書のほか、食品メーカーと低糖質食品の共同開発も積極的に行っており、糖質制限の第一人者として、各種メディアでも多数取り上げられています。