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小麦畑から食卓まで 北海道座談会

[小麦の品種開発]

帯広畜産大学 教授 山内宏昭氏

帯広畜産大学 教授

山内 宏昭

[小麦の生産農家]

(有)道下広長農場 代表取締役 道下 公浩氏

(有)道下広長農場 代表取締役

道下 公浩

チホク会 会長 山川 健一氏

チホク会 会長

山川 健一

[小麦を扱う製粉事業者]

(株)山本忠信商店 代表取締役 山本 英明氏

(株)山本忠信商店 代表取締役

山本 英明

[商品の開発・販売]

敷島製パン(株) 代表取締役社長 盛田 淳夫

敷島製パン(株) 代表取締役社長

盛田 淳夫

敷島製パン(株) 研究開発部 パン開発グループ 主任研究員 栗田 木綿子

敷島製パン(株) 研究開発部
パン開発グループ

主任研究員 栗田 木綿子

将来を語る研究者

約20年前に始まったパン用小麦への挑戦

将来を語る研究者

約20年前に始まったパン用小麦への挑戦

司会:本日は“ゆめちから”を通じて、同じ目標に向かってチャレンジを続けていらっしゃるみなさんにお集まりいただきました。この座談会ではそれぞれの取り組みや想いなどを語り合っていただきます。まずは山内先生が“ゆめちから”の開発に着手した当時のお話からスタートさせていただきたいと思います。開発にも相当なご苦労があったと伺っていますが。

山内:正直言って、私は結構楽天的なところもありまして(笑)。

盛田:でも、開発には時間もかかりますよね。

山内:そうですね。私が“ゆめちから”の開発に取りかかったのは、約20年前になりますね。あの頃は国産小麦と言えば、全国を見渡しても90%以上が中力小麦だったんです。当時から、パン用の国産小麦が求められていることもわかっていましたから、「今ある中力小麦をうまく活用できる新しい小麦品種をつくって、パンができないか」と考えました。それで、中力粉1とブレンドした時に強力粉1のようになる超強力小麦の育成に着手したんです。中力粉とブレンドしてパンをつくるというやり方は、現在やっと認知されてきましたけど、当時は「中力粉と超強力粉をブレンドしてパンをつくるなんて、できるわけがない」と言われましたよ。

盛田:今振り返ると、山内先生と私がお会いしたのは本当にいいタイミングだったと思いますね。

司会:それはいつのことですか。

盛田:2008年です。私が国産小麦でパンをつくろうと思うに至った最初の動機は、2007~2008年頃に起きた世界的な食糧不安です。穀物相場の高騰や、干ばつによる小麦生産量の減少など、混乱した状況の中で「輸入に頼っていた小麦粉が今後もちゃんと調達できるのか」「お客さまの期待に応えられるパンができるのか」と猛烈な危機感を持ちました。輸入に頼れないなら国内で調達すればいいと思われるでしょうが、国内にはパン用に適した小麦がなかったんです。それなら生産地や研究所と協力して、パンに適した小麦がつくれないかと考えていた時、山内先生とお会いしました。2008年にお会いして、その秋に先生が開発した小麦で試作したパンを試食させていただきました。当時はまだ“ゆめちから”ではなく、「北海261号」という系統番号(開発番号)で呼ばれていましたね。

山内:「北海261号」というのは、それまで260の開発番号の小麦系統が育成され、そのほとんどが形にならなかったということです。

盛田:ひょっとすると“ゆめちから”も、日の目を見ないまま終わっていた可能性もありますね。

山内:交配を開始したのが1996年で、2009年に北海道の優良品種2に認定されました。それから普及ですから、実質15年くらいかかっています。優良品種になる前に、山本忠信商店(以下:ヤマチュウ)の社員の方がわざわざ私の研究室に来てくれまして。それで「今度新しい品種が出ると聞いたので、試しにやってみたい」と言って、チホク会と一緒に栽培に取り組んでいただきました。

山本:それまで国産小麦は政府買入だったんですが、2000年産の小麦から民間流通になった。そこから小麦栽培に対する考え方や取り組みが大幅に変わりましたね。政府主導の小麦づくりから、市場ニーズに応えた小麦づくりに変わったといえますね。

道下:まだ名前がなくて開発番号だった時にチホク会でも数名の会員にお願いして、まず試験栽培を始めました。

山本:そうそう。私は、やっぱり「欲しい」と言われているものをつくっていくのが、農業の本来の姿だと思うんですよね。食べ物をつくっているんですから。

山内:山本社長からも「豊作でたくさんできた農作物は、『もう充分にあるから、今は必要ない』と言われちゃうんだ」という話を聞いていました。そういう背景もあるし、パン用小麦はニーズがあるということで、ヤマチュウやチホク会のみなさんは「欲しいといわれるもの、喜んでもらえるものをつくりたい」という想いで、栽培に取り組んでくださったんですよね。

※1 中力粉、強力粉

小麦粉はタンパク質の含有量によって、強力粉、中力粉、薄力粉に分けられる。中力粉は主にうどんやそうめん、お好み焼きなどに使用され、強力粉はパンや中華麺などに使用される。

※2 優良品種

農林水産省に品種登録された品種を北海道で審査し、普及を推進すると認められた品種を北海道の優良品種として認定し、道内の農業関係者が品種の普及を推進する制度。なお、品種登録前は便宜的に系統番号(開発番号)で呼ばれる。

小麦粉としての“ゆめちから”の不思議な力

小麦粉としての“ゆめちから”の不思議な力

司会:栗田さんはPascoで商品開発というお仕事をされていますが、どんなふうに“ゆめちから”に関わられたのですか?

栗田:私はPascoに入社して以来、国産小麦を使ってパンを試作する仕事が多かったんです。いろいろな種類の国産小麦を使って定期的に試作していたんですけど、全然パンにならないものばかりで…。“ゆめちから”に出会って、“この子”を使ってみたら普通にパンができたので、それに感動しましたね。今でも試作をするたびにいろいろな特長が出てくるんです、“ゆめちから”は。例えば、副原料3の味がバッと出やすいので、バターの味わいを生かすこともできるし、甘みを出すこともできます。

山本:そういうメカニズムみたいなものがわかってきたんですか。

栗田:メカニズムというよりは小麦粉自体が淡白なので、副原料の味が出やすいんでしょうね。

道下:ああ、なるほど。でも、栽培する者にとって、畑での“ゆめちから”は最初は癖があったというか…。

一同:(笑)

道下:だけど、素直は素直なんですよ。

山本:大きいトラブルはないですよね。当初は葉っぱが黄色くなっちゃって、「これは病気だ」という話があったんですけれども、それは“ゆめちから”の特徴だったんですよね。それがわかってからは、トラブルはほとんどないと思うんです。

道下:見かけによらず“ゆめちから”は大食らいで。

栗田:肥料を食べるということですか。

道下:うん。だから、その葉っぱの黄変も、結局はちょっと栄養が足りなかったみたいなことでした。今は肥料も変えて、非常にいい感じで育っています。

盛田:今、「超熟」に“ゆめちから”を8%配合しているんですけど、“ゆめちから”の効果で今まで以上にしっとり感、もっちり感が出ました。非常に不思議な小麦粉ですよね。

栗田:「国産小麦のバウムクーヘン」という商品にも“ゆめちから”を使っています。

盛田:これは“ゆめちから”100%使用です。

栗田:先ほどの社長の「しっとりする」という言葉を受けての話なんですが。一般的にお菓子は、もちもち感の素となるグルテン(小麦のタンパク質の一種)が出ない薄力粉を使います。

山内:お菓子は生地の調製時にグルテンを出しちゃいけない。

栗田:はい。さっき“ゆめちから”は副原料の持ち味が出やすいと言いましたけど、「国産小麦のバウムクーヘン」は油脂や砂糖といった副原料が多いんです。だから、超強力粉の“ゆめちから”を100%使用していても意外にグルテンは出ず、副原料の水分を吸ってしっとりするという、いいところが出せました。

山内:“ゆめちから”の吸水性に目を付けたんですね。

盛田:「MY BAGEL」シリーズも“ゆめちから”100%使用ですが、こっちは本当にもっちり感がある。しっとり感も、もっちり感も出せるから予想以上に商品づくりの用途が広がっていく。面白いですよ、これは。

栗田:性質が特殊でボリュームが出すぎることもあるので、ミキシングや原料投入のタイミングも工夫しています。

※3 副原料

主原料(小麦粉、水、塩、イースト)以外の原材料のことで、油脂(バターなど)、砂糖、卵、乳製品など。

新たな発見を糧に進歩し、次世代を育成

新たな発見を糧に進歩し、次世代を育成

司会:小麦粉としての“ゆめちから”の性質や、商品づくりの工夫などの話題が出ましたが、道下さんと山川さんも栽培する中でいろいろ努力されていると思います。

道下:私の仕事は食べ物をつくることなので、より求められるもの、喜ばれるものをつくるために努力し続けることが自分の仕事だと思っています。

山川:どんなにいいものができても、その現状に満足することなく常によりレベルの高い小麦づくりに挑み続けていくのが、私のこだわりでもあります。栽培する中で気づいたのですが、“ゆめちから”は縞萎縮病(しまいしゅくびょう)4に非常に強いですね。

山内:そうですね。縞萎縮病に強い小麦は今のところ“ゆめちから”だけです。

山川:栽培方法についての工夫というか、私のスタイルとしては種と一緒に肥料を撒きません。自分の畑で何年も栽培しているし、土壌分析もして土壌についてはある程度把握している部分があって、データ化もしている。だから、自分の畑の土壌に合わせて肥料などを管理するのがベストだと思ってやっています。

山内:私は国の研究機関での業務が長かったこともあって、最初に種を播く時に種の横に肥料を入れる基肥(きひ)というのが私の中で常識になっていたというか、そういう固定観念がありました。今、山川さんの「種と一緒に肥料を入れない」というお話を聞いて、基肥を与えないということにびっくりしました。

山川:固定観念でいろいろな物事が進んでいくけど、そこを誰かが崩さないと技術の進歩はないというか。これからの農業が進展するためには、固定観念を崩すことも大切だと思うんです。

司会:山川さんから「これからの農業」という言葉が出ましたが、山内先生は現在、大学で学生を教える次世代育成に携わっています。どのような想いで教えていらっしゃるのですか。

山内:“ゆめちから”を通してみなさんと出会ったこともあって、「実学重視」で学生を育てたいと。「実学重視」とは、自分の研究を机上の空論で終わらせず、きちんと最終商品にして世の中に出し、社会に貢献できる人を育てるということです。そのためにも学生にはベースをきちんと勉強させないと、レベルの高い実学研究はできないですよね。

司会:山内先生が教鞭を執る帯広畜産大学はPascoと包括連携協定を結んでいますね。

山内:学生たちは今、Pascoさんと共同研究をさせてもらっています。当然、Pascoさんの研究者の方はプロであり、Pascoの商品を実際につくっている人たちですから、商品開発に関して学生がプロの研究者に勝てるわけがありません。こちらのレベルが低いとPascoさんに対して貢献できないですし、何かお役に立てる力がないとよりレベルの高い共同研究はできませんので、学生にはベースの部分をきちんと叩き込んでいます。それで、彼らが産業界に出た時に、それを生かしながらレベルの高い商品を開発して世の中に貢献していく。そんな学生を育てたいんです。ちょっと、格好つけ過ぎかもしれませんけど。

盛田:次世代ということでは、Pascoでは「ゆめちから栽培研究プログラム」という取り組みを継続しています。これは、高校生を中心に“ゆめちから”を栽培してもらい、食について考えてもらうというもので、今3年目ですね。若い世代の人に小麦を育ててもらうことで「あ、この小麦はパンにもなるんだ」と、農業や食に対する世界を広げていくお手伝いをしています。

※4 縞萎縮病

小麦の茎や葉が黄色くなり、黄緑色の細長いかすり状の斑点などが現れる。
新しい茎が出にくく、小麦の背丈や根が伸びにくくなる。

帯広畜産大学 研究室にて学生への指導