赤ちゃんの歯を守るために欠かせない歯磨き。でも、いつから、どんなふうにするのが正解なのかよくわからなかったり、赤ちゃんが歯磨きを嫌がったりして悩むことも。そこで赤ちゃんへの歯磨き指導も行う小林歯科クリニック院長の小林京子先生に、赤ちゃんをむし歯から守るポイントや、赤ちゃんが気持ちよく歯磨きさせてくれるコツを聞きました。
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中は無菌状態で、当然、むし歯の原因となる菌(ミュータンス菌)も存在しません。けれど、離乳食を食べさせるときに大人が味見をしたスプーンで食べさせたり、同じ器に入ったメニューを大人も一緒に食べたりすることで、大人の口内にすむ菌が赤ちゃんにうつってしまいます。このとき、菌の中にミュータンス菌がいると、後々赤ちゃんがむし歯になってしまう可能性が高まります。さらに口内の菌は、くしゃみなどでうつることもあり、大人から赤ちゃんへの感染を完全に防ぐことは難しいのです。
そのため赤ちゃんをむし歯から守るには、まずはママ・パパが歯科医で健診や治療を受けて、口内の菌を減らすことが大切です。
むし歯は、ミュータンス菌が食べ物や飲み物に含まれる糖質(ブドウ糖、ショ糖、果糖など)をエサにして作る酸によって口内が酸性に傾くことで、歯が溶け、穴が開いてしまう状態のことです。
そのため赤ちゃんの口の中にミュータンス菌が入っても、すぐにむし歯になるワケではありません。ただ、ミュータンス菌は歯に定着するため、歯が生え始める1才半以降は注意が必要です。
さらにこのころは離乳食から幼児食へ進むタイミング。大人とほぼ同じものを食べるようになるため、糖質の摂取量が増えがちに。自然とむし歯になりやすい環境がそろってしまいます。
そこで見直したいのが、毎日の食習慣。ジュースやスポーツドリンクなど、糖質が多い食べ物・飲み物を控えるのはもちろん、「ダラダラ食べ」はさせずに、食事と食事の間隔を2時間半以上空けるようにしましょう。
というのも、唾液には糖質によって酸性に傾いた口内を中性に整え、酸で溶けた歯を修復する役割があるのです。ただ、唾液の分泌は食事中が最も多く、安静時は少ないため、口内環境を元に戻すのには時間がかかります。「ダラダラ食べ」をすると唾液の働きで口内が中性に戻る前に再び酸性に傾いてしまうため、むし歯リスクが高まるのです。
また、唾液は就寝中ほとんど分泌されません。そのため就寝前には必ず歯磨きをさせましょう。母乳やミルクにも糖が含まれているので、就寝前の授乳もなるべく控えましょう。どうしても飲みたがるようなら、授乳後に湯冷ましを飲ませて、口内に糖質が残らないようにしてあげましょう。
歯が生え始めたら欠かさず行いたい歯磨きですが、いきなり口の中にかたい歯ブラシを入れられると、赤ちゃんは抵抗を感じてしまいます。そこでぜひ実践してほしいのが、歯が生える前からの「歯磨き遊び」。
赤ちゃんの機嫌がいいときに、手遊びのように歌を歌ったり、「つんつん」などと声かけしたりしながら、指で赤ちゃんの口のまわりや口の中をやさしく触ってあげましょう(口の中を触るときは手を清潔にしましょう)。
慣れてきたら、やわらかくて口に入れても危なくないおもちゃなどで遊ばせながら、赤ちゃんの口腔(こうこう)感覚を刺激してあげて。
このとき、赤ちゃんの体をくすぐる、歌を歌うなどの遊びと、赤ちゃんの口への刺激をセットにすると、歯磨きへステップアップしたあとも遊びの延長として受け入れてくれやすくなりますよ。
最初に生える下の前歯の近くには唾液腺があり、唾液が常に流れているので比較的むし歯の心配が少ないです。
指やおもちゃの刺激に十分慣れていたら、離乳食後に水でぬらしたガーゼで乳歯をやさしくふいてあげましょう。
上の前歯はおっぱいや哺乳びんの吸い口が当たり、汚れがつきやすい場所です。とくに就寝時の授乳はむし歯ができやすくなるので、授乳後は湯冷ましを飲ませて、口をさっぱりさせてあげましょう。
上の前歯が生え始めたら、ガーゼで上唇と上の歯の間にたまったミルクをやさしくふき取ります。上の前歯どうしのすき間がない場合はむし歯ができやすいので、歯磨きを始めましょう。水だけをつけた歯ブラシで磨きましょう。
大人が仕上げ磨きをする前に、赤ちゃんにベビー用トレーニング歯ブラシを持たせて、噛んで遊ばせてもOK。
だんだんと唾液が減ってきて、むし歯ができやすい時期です。子どもに自分で磨かせる練習は必要ですが、その後、必ず大人が仕上げ磨きをして、食べかすが口の中に残らないように注意しましょう。
とくに就寝前は大人の仕上げ磨きを徹底して。前歯の裏側、歯の間、生えかけの奥歯のかみ合わせ面は要チェックです。子どもが嫌がって動く場合は、大人の太ももの間に子どもの頭をはさみ、子どもの肩の上に足を乗せるようにすると動けません。磨き始めたら最後まで磨くのが大切です。嘔吐反射が強い場合は、毛足の短い歯ブラシを使いましょう。
2才を過ぎると一番奥の歯も生え始め、大人とほぼ同じ食事ができるようになります。イヤイヤ期に入り、仕上げ磨きを嫌がることもある時期ですが、就寝前の1日1回は大人の手で仕上げ磨きをするようにしましょう。
思うように仕上げ磨きをさせてくれない場合は、フッ素入りの歯磨き剤を毎日使う、フロスで歯の間をすばやくケアする、歯科医院でフッ素塗布を受けるなどの工夫をしましょう。
Q:子どもが歯ブラシを嫌がって口を開けてくれません
機嫌がいいときに行うか、大人の仕上げ磨きテクニックを見直して
子どもが歯ブラシを嫌がる理由は大きく2つ。1つは機嫌が悪い場合で、その場合は機嫌がいいタイミングにトライしてみましょう。「おなかこちょこちょ、ほっぺこちょこちょ、お口こちょこちょ」など、遊びの要素を取り入れながら、口の中にさっと歯ブラシを入れて磨くと、子どもは遊んでもらっている感覚で、嫌がらずに歯磨きさせてくれます。
もう1つは、歯ブラシが口の中に当たって痛い場合。とくに上の前歯の歯ぐき上部にあるひだ(上唇小帯(じょうしんしょうたい))に歯ブラシが当たると、ものすごく痛いです。子どもが仕上げ磨きを痛がっているようなら、この部分を指で覆って歯ブラシが当たらないようにしてあげましょう。それでも痛がる場合は、仕上げ磨きをするときの力が強いのかもしれません。歯の汚れは鉛筆を持つくらいの軽い力で十分落ちるので、大人の力加減も見直してみてください。
Q:乳歯がむし歯になると、永久歯もむし歯になるの?
答えはNO。でも口内環境(食習慣)を改善しないと、むし歯を繰り返すことに
乳歯がむし歯になったからといって、永久歯が必ずむし歯になるとは限りません。ですが、むし歯は口内環境の乱れが原因です。乳歯がむし歯になる=むし歯になりやすい口内環境であるといえます。乳歯のむし歯を治療しても、食後に歯磨きをしない、ダラダラ食べをしている、甘いものをよく食べる(糖質の摂取が多い)など、むし歯になりやすい食習慣を改善しなければ、永久歯もまたむし歯になる可能性が高くなります。
むし歯は治療したら終わり、ではなく、むし歯ができやすい口内環境を改善することを意識しましょう。
Q:食べている途中で寝てしまうことが多く、思うように歯磨きができません
むし歯予防のためには、寝そうだな…と思ったときは無理に食べさせない方がいい
就寝中は唾液の分泌がほぼないので、いちばんむし歯になりやすい環境です。寝ている間に歯磨きシートでさっと磨く、というママやパパもいますが、それでは不十分。就寝前には必ず歯磨きをして、口の中に残った食べかすをしっかり落とすことが大切です。
食べている途中で寝てしまうことが多いなら、寝そうだな、と感じたときは無理に食べさせないというのも選択肢の1つです。
Q:手磨きだときちんと磨けているか不安。電動歯ブラシを使ってもいい?
磨いたあと、前歯を触って「キュッ」と音がすればOK
電動歯ブラシの中には低年齢から使えるものもありますが、乳歯の仕上げ磨きは歯ブラシで汚れを取ってあげれば十分。手磨きでしっかり落とせます。
チェックポイントは、①前歯を指で触ってみてヌメリがなく、キュッと音がすればOK ②奥歯の溝に食べかすが残っていなければOK ③歯につや(光沢)があればOK の3つ。
あとは定期的(1~3ヵ月に一度程度)に歯科健診でお口の中をチェックしてもらいましょう。フッ素入りの歯磨き剤を使う、歯科医院でフッ素塗布してもらうなども、むし歯予防にいいですね(フッ素入り歯磨き粉の使用量はしっかり確認しましょう)。
Q:子どもがむし歯になったら、クリニックはどうやって選べばいい?
むし歯になる前から行きつけのクリニックを作っておくと安心です
初めての場所、初めて会う先生、初めてのむし歯治療…と、初めてが多いと子どもは不安になりがちです。そのため、むし歯になる前から定期健診などでかかりつけのクリニックや先生に慣れておくと、いざむし歯になったときも治療がスムーズ。
むし歯の原因となるミュータンス菌は、大人から子どもにうつるので、離乳前からママ・パパが子どもを連れてクリニックに通い、場所や先生に慣れさせておくのもいいですね。
かかりつけのクリニックがなく、急きょむし歯治療が必要になったという場合は、事前にクリニックに問い合わせをして、子どもの年齢や状況を伝えましょう。小児歯科の専門医がいると安心ですが、小児歯科医の看板がなくても、診てくれる場合もあります。
赤ちゃんが楽しく歯磨きできるように、ママやパパがうまくリードしてあげることが大切ですね。また、一緒にクリニックに通うなど、ママ・パパの口内環境を見直すきっかけにもなりそう。この記事を参考に、親子で楽しい歯磨きを続けてくださいね。
(構成・文/たまひよ編集部)
【取材協力・監修】
小林歯科クリニック 院長 小林京子先生
2005年に東京都立川市にクリニックを開業。子どもの食育や、あごを広げて歯を抜かずに行う歯列矯正に取り組む。マタニティ歯科、赤ちゃん歯科、小児歯科など、マタニティ期からの継続した丁寧なケアを行っている。
HP:小林歯科クリニック